2024.01.19
ジェーン・スーが語る どうして自分に自信が持てないのか【前編】
コラムニストのジェーン・スーさんとフリーアナウンサーの堀井美香さん、2人が織りなす心地よいテンポ感でユーモアが炸裂しているPodcast番組「OVER THE SUN」をご存知でしょうか? 2020年10月に配信スタートし、お二人と同世代の女性だけではなく、性別を問わず10代-80代までの幅広い年代のリスナーを虜にしている大人気番組です。
そんな「OVER THE SUN」初の展覧会が、渋谷PARCO B1Fの GALLERY X BY PARCOにて1月19日(金)よりスタート!
イベントに展覧会に大忙しのジェーン・スーさんに、女性がよく抱える心のお悩みについて語ってもらいました。ファンのみならず、日頃のモヤモヤをスッキリさせたい人必読です。
Column: Jane Su
Illustration: Haruhi Takei
Edit: RCKT / Rocket Company*
●「本来の自信」がある姿って?
「自分に自信が持てません」という相談を受けることがあります。なかなか難しいですよね。私だって半世紀も生きてきたのに、自信たっぷりとは言い難いもの。小さな失敗が続いてドーンと落ち込むこともあります。
でも、自分という存在にOKは出しています。私なんかにできるわけがない、やりたくないけれどやらなければ存在を認めてもらえない、私程度の能力ならひどい扱いをされても我慢しないといけない、とは思っていません。自分のことをダメな存在だとは定義していないということです。
そもそも、「自信がある」ってどういう状態なのでしょう。競争に負けないという確信を常に持てるとか、人前に出ても緊張しないとか、チャレンジに怖じ気づかないとか、そういう有様を想像する人も少なくないと思います。でも、そういうアグレッシブな状態ではないと思うんです。本来の自信って、もっとおだやかなものではないでしょうか。
ありのままの自分をすべからく肯定できるほど熱量が必要なものではなく、なにをやってもうまくいかないと己に一切の期待をかけぬほど冷めた態度でもなく、うまくいったりいかなかったりするけれど、それでも私は大丈夫だと自己受容している態度こそが毎日を楽しいものにするし、ひいては他者に「自信がある人」という印象を与える。私はそう思います。競争が好きで常に勝気だとか、なんでもできると過信した傲慢な様子だとか、そういうこととは違う状態。
にもかかわらず、「自信がほしい」と言う人は一足飛びに、誰の反応も気にせず自分の能力を疑わず自由にやれる状態に憧れがちです。突然そんな風にはならなくていいんだよ。いちばん大事なのは、うまくいかなかった自分を自分で責め過ぎないこと。「ほうら、やっぱりうまくいかないじゃない」と、自分で自分を見下さないこと。「どうせやっても無理だから」と、挑戦したい気持ちを自分で押しつぶさないこと。
●「女らしいは褒め言葉」は実は大きな落とし穴?!
女性の場合、「女らしい」という言葉から多少なりとも影響を受けます。だって、「女らしい」は褒め言葉だから。誰だって、褒められたらうれしいもの。褒められるってことは、女らしくあったほうが世間では好ましいとされるってこと。
生まれてからずっと、私たちの身の回りにある「女らしい」と言われるもの。おしとやか、協調性がある、感受性が高い、よく気が付く、やさしい、きめ細やか、などなど。料理や華道や手芸が趣味なら「女らしいね」と言われるでしょうし、柔らかい素材のスカートやパンプスも「女らしい」ファッションと見做されるでしょう。決断力があり、身を挺して誰かを守ってくれ、ロッククライミングが好きで、ファッションはいつもアーミーパンツとTシャツの女性はとても素敵だけれど、「女らしいね」とは言われないでしょう。
実は「女らしいは褒め言葉」が大きな落とし穴なんじゃないかと、私は睨んでいます。本来の自信がおだやかな自己受容だとしても、そこに至るまでには「私にはできる」と信じられる成功体験が必要。成功体験があってこその、「(今回は)できなくても大丈夫」だもの。言わずもがな、成功体験にはチャレンジが必要ですが、果たしてチャレンジは「女らしい」でしょうか。「難題にも果敢に挑戦する人」は、男らしい? 女らしい? 答えは簡単ですね。
女を自認する人間なら、女らしくあったほうが生きやすそうな世の中です。そんな妄言にはブラされないぞと意気込んでいても、仕事や異性愛間の恋愛で心が弱ったときには「うまくいかないのは私が女らしくないからかも……」と思ってしまうこともある。しかし、これが八方塞がりのきっかけになりかねないから要注意だと、私は警戒しています。
アーミーパンツとTシャツの女性が女らしいとは言われないように、「私ならできる」と信じている状態を「女らしい」とは表現しません。「女らしい」が褒め言葉なら、それが欺瞞だと気付くまでは、女らしくあったほうがよいと考えてしまうのは仕方のないこと。よって、世の中に適応するため、他者に好ましく思ってもらうために女らしくあろうとする限り、チャレンジもできないし、成功体験も持ちづらいし、他者からどう思われるかが気になってしまうし、結果的におだやかな自信が持てなくなってしまう。と同時に、女らしくないからうまくいかないと自分を責めれば、当然自信はつかない。なんと恐ろしいシステム。「女らしいは褒め言葉」を考えた人は天才です。褒めてないけどね!
「女らしい」が褒め言葉である限り、女が自信を持つのは難しい。そう気付くだけで、自責の念は多少なりとも減るのではないでしょうか。私の自信のなさは、一生懸命社会に適応しようとしてきた成果なのかもしれない。自分らしく振舞った結果、女らしくないからと一蹴されたことを気に病んでいただけかもしれない。だとしたら、健気な自分の肩をポンポンと叩いてあげたくなるではありませんか。なーんだ、私の能力の問題ではないんだ。変なシステムのせいなんだと思えるだけで、いつもより深く呼吸ができるのではないでしょうか。
すべてを人のせいにするのは得策ではないのと同じように、すべてを自分のせいだと考えるのも得策ではない。まずは、そこから。その先は、次の機会に書きますね。
▷次回の配信は 2月 16日(金)です。どうぞお楽しみに!
●Information
大人気Podcast番組「OVER THE SUN」の展覧会が渋谷PARCO B1F GALLERY X BY PARCOにて初開催!!
番組の人気コーナーや、番組から生まれた様々な小ネタを空間に落とし込み、番組の世界観をリアルな場で体験することができる内容に。「スーさん・美香さん」の“好きなもの”をふんだんに詰め込んだテーマパークさながらの空間をぜひお楽しみください。
OVER THE SUN PARK ~私たちの花が咲いたよ~
会期 2024年 1月 19日(金)~ 2月 12日(月·祝)
会場 GALLERY X BY PARCO(渋谷PARCO B1F)
営業時間 11:00~21:00
入場料 800円(税込) ※入場特典・おみくじ付き
主催 企画制作 株式会社パルコ・TCエンタテインメント株式会社
企画協力 TBSラジオ
※展覧会内容は予告なく変更となる場合がございます。
展覧会詳細はこちら
●Profile
ジェーン・スー
1973年東京生まれの日本人。コラムニスト、ラジオパーソナリティ、作詞家。2015年、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で講談社エッセイ賞を受賞。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のメインパーソナリティを担当。2020年よりスタートしたポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』が話題に。 その他の著書に、『生きるとか死ぬとか父親とか』『これでもいいのだ』『女のお悩み動物園』など。
■Podcast
『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』